ねじ巻き人形
今週のお題「「怖い話」に、ちなんだ話」
小学生の頃のこと。
わたしはリビングで母と向き合うようにして夕飯を食べていた。他愛ない会話の中の、ふとした隙間。
「カチッ」
音が聞こえたと同時にわたしは母と目を合わせた。どこからか優しいメロディーが聴こえている。音のする方へ目を向けると、ピアノの上に飾ってあった可愛いらしい人形が手足をぱたぱたさせながら音楽を奏でていた。
「あっ」
母は声を上げた後、くすり、と笑った。続いてわたしも、あ、と気付く。今日は祖父の命日だ。わたしは、くすり、と笑った。
解説
この人形はまだわたしが赤ん坊の頃に祖父(母方)から孫へ、と買ってくれたものです。
人形が動いた当時、母は昼夜2交代で働きながら家事もこなしていました。今思えば、相当忙しい日々を送っていたことだろうと思います。また、祖父は60代で亡くなっており随分経っていた為、命日のことを母もわたしもすっかり忘れてしまっていました。
祖父は熊のような大柄で、黒い肌に金のネックレスが似合う強面お爺さん。性格は明るく寂しがったりするような人ではなかった為、思い出して欲しくて人形を動かしたのかと思うと、可愛すぎて母もわたしも笑ってしまいました。
ちなみに、この人形はねじ巻きで動くものでした。